【シャノワール】







くいっ。
退室の挨拶を終え、執務室を出ようとしたところを捕まえられた。
「?」
今渡された書類に不備でもあったのかと振り向けば、この部屋の主人のさっきまでの傲慢な
態度はどこへやら、俯いた黒い髪の毛が見える。
「ロイ?」
呼び掛けても答えはなくただ再度、くいくい、と軍服の上着の裾を引っ張られる。
「どうした?」
らしくない頼りない仕種にこちらもらしくなく優しい声になって、それに自分で驚いた。
「…のか?」
丸くて小さな頭、つむじの位置までわかるほど俯ききっているせいで声がくぐもって、
素より聞き取りにくい声質の持ち主でもないのに、語尾しか聞こえない。
「何だよ、俺、これ持ってかなきゃならねえんだけど?」
ぴらぴらと書類を摘み上げて、さして感じてもいない苛立ちをわざと前面に押し出して
やれば、弾かれたように顔を上げる。
「か…えるのか?」
「ああ。将軍のところに挨拶したらな」
途端、寄せられる眉根。
きゅ、と噛み締められるくちびる。
いつもどこかほのかに色づいたような二枚の花弁に血液が集まって、更に色濃く染まる様は
いっそお見事と評したいくらい美しい光景だったけれど、言わなきゃわからない。
叶えて欲しいことは相手の目を見て言葉にしなきゃとずっと教えてきただろう?
そろりと頭を擡げてきた好きな子を苛めたくなるような子どもじみた感情が、胸元に縋り
ついてきたロイの肩越し、壁に掛けられたカレンダーの今日の日付に大きく付けられた
印にゆるゆると解けていく。
「どうしたんだよ、ん?」
触れた途端ぴくん、と反応する頬の滑らかな感触を楽しみながら、促すように両手で包み
込んで上を向かせる。
「…っ」
そのまま、とん、とカラダ全体でぶつかってくるみたいに背後の扉に押し付けられる。
書類がかさりと床に散らばる音をBGMに伸び上がってくちづけられる。
触れたくちびるは、キスする瞬間を渇望していたかのようにしっとりと濡れて、甘くて、
「猫を、飼い始めたんだ…」
ようやくこぼれおちた台詞との格差さえ、ないことにしてくれる。だから、やわらかく
聞き返した。
「猫?」
「…白くて、小さくて、すごく可愛いんだ…」
「ああ、それで?」
「家で飼ってるんだ…だから、」
皆まで言えない可愛いくちびるを、今度は俺から塞いでやった。
今日はホワイトデー。
たまには、チョコレートよりも甘い時間をおまえにあげよう。
「今日は、おまえの家に泊まらせてもらうとするか」
ぴょこん、と耳が蠢く擬音さえ感じさせる素直さで見上げてくる。
そんな自分を窘めようと、喜色満面に浮かべたままの頬がごまかすために逸らされるのを
許さず、真っ正面から覗き込んでやる。
「黒くて、もうちょっと大きくて、もっとずっと可愛い猫もいるしな」







あとがき

ヒューロイ同盟さまから頂いたフリー絵(涼海あやさま、ありがとうございます!)が
あんまりにも素敵だったので、ついつい書いてしまいました。
一日早いホワイトデーSSってことで、皆様にもハッピーホワイトデー!

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吉川娘々様から頂きました!!甘いヒューロイ…ラヴですvv
吉川様、ありがとうございました!!
吉川娘々さんのサイトはコチラ
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