Bitter Sweets

作:立花悠希

 

 まるで昔見た外国映画のベッドシーンに連なる、お定まりの幕間の様だと。
 口の端にタチの悪い程、嬉しそうな笑みを浮かべた相手の。
 段々と近づく代わり映えのしない顔を眺めながら、それでも。
 口惜しいかな、満更でもなく。そう、思った。






 たまたまお互い休日がかち合って、相手の家庭の家族サービスの予定もたまたまなくて。持ち帰り残業も幸い片付いていて、連絡の行き違いもなくて。こうして、まるで計ったようなタイミングでお互いの予定が空いて、二人過ごせる休日は。
 天文学的数値を引き合いに出す程珍しくはなくとも、半年後の天気予報程度に確率は低い。最も、不確実性と可変性が高くなるとはいえ、ある程度データを元にしたものである以上。予測は可能だし、自分の予定をそれに合わせて多少遣り繰るくらい可能の範疇だと。
 ロイはヒューズという得がたい存在を得て以来、自然とそう思うようになった。
「食べるか?」
 無論相手にわざわざ、言う程の労苦でもないし。逆にそうと聞かれる事もない。それでもこうして“たまたま空いた一日”を装って相手に、遠くもないが隣近所という訳にもいかない中央から東部への旅路を誘えば。相手も図ったように予定を空けてあるから。
 だからきっと、お見通しという事なのだろう、とも。
「いや、俺はいい」
「そうか」
 ラジオからは、キナ臭い軍部のグの字からも遠ざかったクラシック。元より聞き入る程造詣が深い訳でもないお互いにとっては、BGM代わり。さて、一日暇ならついでに読破してしまおうかと。読みかけだった錬金術の研究書を開いてはみたものの、結局内容は右から左と字面を流し見ているだけ。ヒューズはヒューズで、読み損ねていた今流行りらしい本をパラパラと。捲っているだけのソレは明らかにハズレであったらしく、退屈そう。
「しっかしお前さん、つくづく甘いモン好きだよなぁ」
 そうして、ついに読書には飽きたらしく。一人暮らしの軍の独身寮。最小限しか物を置かないロイの殺風景な部屋とて、二人してソファ代わりのベッドの上。行儀悪く胡坐を掻いた隣から。先程差し出したポッキーの箱と、ロイの咥え掛けの黒い砂糖菓子とを見比べながらの、感嘆半分に呆れ声。
「んぅ、」
「何言ってるか判んねぇって。食うのか喋るのかどっちだ?」
 食べかけのモノをもごもごと、同時に喋ろうとしては失敗して笑われる。些かムっとしながら、それでも一応食べかけのポッキーを口からは放して。チョコの付いてない根元を持ちながら、空いた手で指差した反論は一言。
「ビターチョコ」
「で?」
「そんなに甘くない」
 過剰な修飾語も繕う敬語も。二人が二人で居られるだけの場所では、前置きさえも要らないで伝わるし、通じる。それに甘えていると言われればその通りだとも、とうに自覚済ではあるけれど。
 けれどこうして居られる以上、甘えていても。大丈夫なのだと、言ったのは目の前の相手だから。無心に信じられる程、子供でもないけれど。疑わない事にはしている。
 それでもきっと。最後のその瞬間までは、たぶん絶対の約束を。
「ふむ。じゃあ試しに一本」
「あ、」
 カサカサ、と。甘党にはいかにも食欲をそそりそうな箱を逆さにして、振る。今手の中にあるので丁度最後。そう言えば気付けば大分、日も傾いていて。
「なんだ、ラストワンか」
「悪いな」
 どちらかと言えば辛党、なヒューズに。流石に取られはしないとは思いつつ、それでも最後の一本を再び口に。と、
「じゃ、それでいい。一口くれ」
「ん?」
「そう、ソレ」
 そうして、止める間もあればこそ。己の口のポッキーを指した指先、を。引き寄せて大きな掌が覆ってしまう。空いた手が肩に、ご丁寧にも逃げ道を奪う様に足が、絡まって。カリカリ、と。ひとくちづつ噛み砕く、音と共に近づく見慣れた顔は。口の端、堪え切れないタチの悪い笑みの影が躍っているのに。
「「・・・・・・・・・」」
 互いの分岐点ギリギリを、噛み切って一瞬だけ重なった唇の熱さ、を。
 それでも足りない、と。思ってしまう自分がどれだけ口惜しいか、なんて。
「ゴチ」
 絶対に言ってはやらないと、思っているのに。最後に至極嬉しそうに。唇の端に残ったチョコの名残を舌で掬い取って笑う、相手の笑みは。
「・・・客観的に述べて、果てしなく薄ら寒い構図だと思うのは私だけか」
「素に返るかな、そこで」
「客観的視点は事象を明確にする上で必要不可欠だ」
「あー、はいはい。お説ごもっとも。で、オチも付いた事だし」
 結局全て、見透かされている様で悔しい、のに。
 それより何より、も。
「寒いついでだ、この際お互い暖め合うってのはどうだ」
「お前は結局それか」
 こうしてこちらが、あえて呆れて見せても。
「お前さんが無防備なのが悪い」
「私の所為か?」
 あくまでそらトボけて、見せたって。
「ああ。名残惜しそーにチョコ舐めてるお前見てたら、このまま押し倒したくなった」
「ケダモノ」
「駄目か?」
 結局は見透かされている、のを。
 嬉しいと思ってしまう自分が、一番。
 口惜しくて癪で悔しくてもどかしくて、それから・・・それから。
「・・・・・・・・・で。お前は押し倒したくなる、だけか?」
「いいや」
 も、限界。そう耳元で囁いた低い声。
 強い力で絡まる腕。
 強引でもなく、拒めるだけの隙を残した動作。
 重なる躯の重みだとか、温かさだとか。
 そんな当り前のもの、が。
 たまらなく愛おしいと、思う。






 そうして突き落とされたシーツの波間に。スタンドライトだけの落とされた灯りが微妙な陰影を付けて。普段、手袋に隠れる手の甲には熱い唇の感触。キツク、吸い上げられて。紅い跡がじんわりと、滲むように残っては拡散する。
「甘い、な」
 呟いた声が、腰に響いて。歯の浮く様な感覚に、息を飲む。ひとつに繋がった場所が軋んで、疼くような感覚に悲鳴を上げる。
「っ・・・チョコが、か?」
「まだトボけるか、そこで」
 微かに笑う振動さえ、昂った躯には今は刺激で。堪え切れない吐息がひとつ、夕闇の帳に落ちて。思わず眉を潜めると、大きな掌があやす様に髪を撫ぜた。
「ヒューズ」
「ん?」
 目の前で自分に酷い苦痛と、もどかしい疼痛とを与えて。
 ひどく嬉しそうに、笑うこの男に。
「・・・お前も甘い、な」
 こうして抱きしめられるたび、甘やかされるたび、にいつも。
 気付かないでいて欲しいと、思う。
 気付いていても、いいから。
「チョコが?」
「ああ、チョコが」
 こんな見え透いた真実さえ信じられない臆病者、だけど。
 こんな見え透いた嘘にどうか、いつまでも騙されていて。






 本当に甘いのがどちらかなんてずうっと、気付かないフリで。






END


妄想元・・・もとい(げふごふ):ヒューロイ同盟様にて。VDフリーイラストより触発されたシロモノ。


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立花悠希さんよりイメージSSを頂いてしまいましたvv(乱舞)
ぎゃー!!エロヒューズラヴ!!(涼海サン、散って来なさい…?)
立花さん、大人びたヒューロイをありがとうございます〜vv絵描きやってて良かった〜(笑)



立花悠希さんのサイトはコチラ



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